トランジスタによるアナログ回路を論じる、レジェンド・ニッチな世界で、オーディオパワーアンプに、トランジスタによるカスコード回路構成を勧めている方が居られるようですが、私はお勧めしません。 以下では、お勧めしない理由をご説明します。これは、技術普及を進めている、安定帰還(SFB)アンプの基本理念に該当するからです。
電気による信号増幅は、電圧電流変換、電流増幅と電圧増幅の組み合わせで行われます。
ご存知の真空管は、真空中をカソードからプレートに流れる電子群をグリッド電界で抑制するもので、その動作原理から電圧電流変換を基本とした素子です。
カスコードは、電圧電流変換率がプレート印加電圧に大きく依存する三極管の欠点を改善するために考案されたもので、これを一体構造化したものが五極管と言ってよいでしょう。 カスコードは、cascade connection triode から作られた造語のようですので、以下ではカスケードと書きます。 一方、トランジスタは、エミッタ、ベース、コレクタからなる3端子素子で、ベースからエミッタに流れる電流をコレクタ電流で増幅する、電流増幅を基本とした素子です。
電流増幅率は全体量比較をhFEで表され、動作点での微小変化比較hfeは、コレクタ・エミッタ間の電圧(以下、印加電圧と記す)変化より、動作電流変化に依存性があるという特徴があり、この特徴を理解することがTRを使いこなす上で重要なのです。
トランジタが開発された当初は、真空管アンプの技術をベースに、電圧増幅を基本にした回路設計がなされていました。やがて、相補性(コンプリメンタリ、PNPとNPN)のトランジタ(以下、TRと記す)が開発され、電流増幅ベースでの回路が自在に実現できるようになりました。
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